歯と口に関する故事・ことわざ

(アの部)
開いた口へ牡丹餅‥‥‥努力せぬのに,幸の良い事が到来すること。
あったら口に風邪ひかす‥‥‥せっかく言い出したのがむだになること。
開いた口も塞がれぬ‥‥‥あきれて物も言えないこと。
開いた口には戸はたたぬ‥‥‥下種の口は戸をたてられぬこと。
顋で背中を掻く‥‥‥出来ないこと。
顎振り三年‥‥‥尺八を習うために最初の年間は顎を振る練習をせねばならないこと。

(イの部)
息の臭きは主知らず‥‥‥自分の息の臭いことは,自分で気づかないこと。自己の欠点は自覚しな
 いこと。
井桁を鼻の下に組む‥…鼻の下に井桁ような口があること。
一口両舌‥‥‥二枚舌を使うこと。前に言うことと,後で言うことが違うこと。
一に漁師口二に子守口三に番頭口‥‥‥この三つはロやかましいものの代表であること。
一口に出ずるが如し‥‥‥ひとりの口から出るように衆人の言うことが同一であること。
一寸の舌に五尺の身を損す‥‥‥三寸の舌に五尺の身を亡す。
一滴舌上に通じて大海の塩味を知る‥‥‥物の一部を知れば,全体を推測出来ることのたとえ。
岩に口‥‥‥石の物言う世の中。

(オの部)
奥歯に衣着せぬ‥‥‥思わせぶりに,事実をはっきり言わずいやみらしい物言いをすること。
奥歯に剣‥‥‥敵意をいだきながら表面に示さないこと。
奥歯に物がはさます‥‥‥すっかり心が打ちとけず,なんとなく隔意が感じられること。思う事を
 充分に言わないで,どこかにおもしろくない気持がひそんでいるのが感じられること。
頤の雫口に入らぬ‥…下顎についた雫は,口には入らないこと。
男立派で嬶反歯‥‥‥美男に醜女の夫婦,ふつりあいのたとえ。
親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む‥‥‥親が子をかわいがりすぎて必要な時にしからぬと,その反面に他人からひどくしかられること。
親の脛噛じる息子の歯の白さ‥‥‥独立することが出来ず親のおかげで生活する人が,かえって身
 なりを小ぎれいに飾って遊び着らす例が多いこと
奥様も今は口様‥‥‥昔はいい所の奥様だったが,今は落ちぷれて食べることの心配にかまけてい
 ること。
大勢の口にはかなわぬ……多数の意見には従わざるを得ないこと。
鬼一口‥‥‥一挙に例されることのたとえ。
思う中に口さすな‥‥‥中傷によってむつまじい仲でも仲たがいをすること。
女は口さがないもの‥‥‥女は無分別につまらぬ事をしゃべること。

(力の部)
蛙は口から呑まるる…蛙は鳴くためにへびにのまれる0だまっていればよいのに・無用の事を言
 って,わざわいを招くのたとえ。
柿は歯の毒腹薬‥‥‥柿を食べると,歯に悪いが,腹には薬であること0
噛む馬は終いまで噛む……悪い癖はなかなか抜けないこと。
噛んで含める‥‥‥親が食物をよく噛んで柔らかにしてから子供に与えるように充分に行き届いて
 理解出来るように教えること。
固い歯は折れても柔かい舌は折れぬ……堅剛なものは,かえって破れやすいこと。
牙を噛んで日を送る……歯がみをして,時機の到来を待つこと。
角ある獣に上歯なし……牙有るものには角無し。
垣に目口‥…・壁に耳
隠す事は口より出すな‥‥‥口止めするより自分が口外せぬのが・秘密を保つより良い方法である
 こと。
敵の家でも口を濡らせ‥‥‥敵の家でも食事が出たら食べよ。利益になる事ならば,意地を張らず
 どんな機会でも逃さぬようにせよということ。
片口聞いて事をわくるな……片方の言い分だけ聞いて訴訟のさばきをしてはならないこと。
虚口にては福楽なし‥‥‥供え物もせず,口先ばかり祈ってはききめがないこと。
烏の口から余った物無し‥‥‥鳥は腐った物でもなんでも食べぬ物がないこと。
唐渡りより喰口……平生食べなれた物の方が,舶来の珍味よりも口に合うこと。
川口で船を破る‥‥‥今一息で成功するまぎわで失築をすること。
京童の口ずさみ‥‥‥京の若者たちのうわさ,世間の人の評判。

(クの部)
食うに倒れず病むに倒れる……通常の生活費だけで破産する者はないが,医薬代で倒産する者が
 多いこと。
口が動けば口が止む……食っている間は,文句を言う方は止まること。
口と腹……言う事と考えている事とは別であること。
唇亡ぶれば歯寒く河氷崩るれば基の壊は山に在り……相より相助けるものを失えば,災害が直ち
 に身にせまること。
□脇黄ばむ‥‥‥まだ幼稚の気分がぬけないこと。子供くさいこと。乳くさいこと。
口に風邪ひかす‥‥‥いらぬ事をしゃべったこと。言った事か無駄になること。
口に針‥‥‥言葉がとげとげしく皮肉たっぷりなこと。
唇亡びて歯寒し‥‥‥互に助け合う関係にある者の一方が滅びれば,他の一方も危いこと。
食い付き犬棒のべる……不愛想きわまること。
食出の無賃‥‥‥手弁当で人のため奉仕すること。
食い外れはするとも飲み外れはせぬもの‥‥‥食う機会は逃がしてもしかたがないが,飲む機会は
 絶対に逃がしてはならないこと,酒を勧める時の言葉。
食物と念仏は一口ずつ‥‥‥一口ずつでもよいから,食べ物は家族全体に分け念仏は皆に唱えさせ
 るがよいこと。
食物のあるのに鉄砲汁‥‥‥他に食物がないわけでもないのに,もの好きにもふぐ汁を食べるとは,
 無分別であるということ。
食うだけなら犬でも食う‥‥‥ただ食って生きているというだけならば,犬もすることであって,
 人間の価値がないこと。
食べき折に食わざるは根なき者となる‥‥‥食事はとれる時にとっておくペきである。
櫛の歯をひく‥‥‥ひんばんに絶えまなく続くこと。
口あれば京へ上る‥‥‥一心さえあれば,出来ないことはないこと。
口あらば食って通る肩あらば着て通る‥‥‥人間は何んとかして暮らしていくもので,案じたもの
 ではないこと。
口が動けば手が止む‥‥‥話に気を取られれば,仕事の方が留守になること。
口金うて一杯‥‥‥食って行くだけで,全然余裕がないこと。
口先の待‥‥‥言葉だけうやうやしく,真心がこもっていないこと。
口さきらを研ぐ‥…われがちに言おうとすること。
口たたきの手足らず‥…・口ばかり達者は割合に仕事の方は腕がないこと。
口では大坂の城も立つ‥‥‥口先だけならどんなうまいこともいえる。
口に使われる‥‥‥食って行くために,あくせく働くこと。
口にはいる物なら按魔の笛でも・‥…意地ぎたなく何んでも食べること。
口には関所はない‥‥‥何を言っても構わないこと。
口の終りは手の始め‥‥‥口論の次には,なぐり合いが始まるのが,けんかのありきたりの順序で
 あること。
口は口1心は心・‥…口に出して言うことと心で思っていることが全く別々であること。
口は重宝‥‥‥口先でほ何んでも言えるが実際とは違うのをいう。
口は禍の門‥‥口から禍が起る。
口弁慶……口は達者だが弱虫なこと。
口増せば水増す‥‥‥人は数が増せば経費も増すこと。
口も八丁手も八丁・…よくしゃべるが,する事も達者なこと。
口より出せば世間‥‥‥いったん口に出してしまえば,秘密は秘密でなくなること。
口伝耳受…‥・人から聞いた意見の受け売りをいうこと。
口松……□のよく回る人のこと。
食付く犬は吠えつかぬ‥‥‥吠える犬は,意気地のない犬だから危険はないこと。実力がないこと
 のたとえ。
食って死んだら色めなりとよい‥・…食った上で死んだのなら死体の血色もよいであろうというこ
 と。
糞と味噌と一つ口‥‥‥物の区別がないこと。
口果報‥‥‥いっもおいしい物にめぐまれていること。
口三味線に乗せる・…‥調子のよい言葉に乗せて,心を許るさせること。
口のききようでお里が知れる…・‥物の言い方で,育ちのよしあしがわかること。
□の世‥‥‥口先のうまさで世渡りの出来る世の中であること。
□貧乏‥‥‥酒煙草もたしなまず,甘い物も食わない損なたちの人。

(ケの部)
下種の口に戸は立てられぬ‥‥‥いやしい者は,かってな評判をするのが常で,これを防どうとし
 ても防ぎきれないこと。
下種の唇と夜着の袖口‥‥‥どちらも厚いもの,口唇の厚いのは下品なことを示すこと。
鶏口となるとも午後となる勿れ‥‥‥たとえ小さい低い地でも,その頭となれの意。


(コの部)
口耳四寸…‥・口と耳との間隔が近いの意。開いたことをそのまま人にしゃべること。
ごまめの歯乳り‥‥‥力の及ばぬ者が憤慨すること。
菰冠りも歯が白くなれば一人前‥…・長い間地上に寝ると,湿気を受けて歯が白くなることをいう
 こと。
口角泡を飛ばす‥‥‥興奮してはげしく議論すること。
後家の口盃は舌たるい上に舌たるい‥・…後家の口盃は実にどうも甘たるいこと。
乞食の蝨で口で殺す……口前で人をまるめこむこと。
匙の先より口の先…・・・やぶ医者が患者のきげん取りは上手だが,治療の技術はへたなこと。
五月の鯉で口ばかり・‥…江戸ッ子は五月の鯉で口ばかりといい,口は悪いが腹は悪るくないこと。

(シの部)
歯牙の間に置くに足らず…・‥取り上げて言うほどの値うちがないこと。
獅子の歯がみ‥‥‥ものすごくたけり怒る様子。
歯を没す‥‥‥命を終ること,死ぬの意。
唇歯輔車‥‥‥相互に助け合って存在する間柄で,一方が滅びれば,他方も立ち行かぬような利害
 関係のこと
獅子人を噛むに牙を露さず‥‥‥有能な者は平素のそぶりにそれを現わさないこと。
金より口……食物もほしいが,口はいっそう大切である。
後口で物言う……どっちつかずの物言いをすること。
歯牙にかく‥…取りあげてかれこれいうこと。
尚歯‥‥‥老人を尊ぶこと。

(ソの部)
鼠口終に象牙無し‥‥‥鼠の口に象の牙が生えたためしはない。へぼが立派なことを言えるわけが
 ないこと。
象は歯有りて以て其の身を焚る…‥・象には象牙があるために身を滅すことになるのたとえ。
反歯に餅見せな‥‥‥出っ歯は餅を食べるのに便利であること。

(タの部)
たかい口に蓮切鼻‥‥‥たらいのように大きな口,蓮の切口のような鼻のたとえ。
民の口を防ぐは水を防ぐよりも甚し……人民の□を防ぐには水をせきとめて流さずにおくよりも
 困難で実行出来ぬこと。また,反面,無理やりにすれば,不満が反乱となって爆発すること。

(チの部)
苣食わぬ者は歯延びる‥‥‥ちさくを食えば,歯が延び過ぎることはないこと。

(テの部)
天狗の口吸で鼻がつかえる‥‥‥鼻がつかえるくらいだというしゃれ。口吸=接吻。
手でせぬ口を慎め……実行が出来ないのに大言をはくのを戒める言葉。
天に口あり地に耳あり‥‥‥秘密や悪事は人が知るまいと思っても誰れともなしに聞き知ってこれ
 を言いひろめる者がいること。

(卜の部)
十口一口に言切れず……十口に言うことを一口に言い尽くすことは出来ないこと。
豆腐で歯を痛める‥‥‥ありえぬことのたとえ。

(ナの部)
泣く口には物食う‥‥‥悲しい最中でも,食べることはやめるわけにはいかないこと。
七歯の牛は門に立たすな‥‥‥牛の下歯は八枚あるべきであるが,まれに七枚のがある。こういう
 牛は不吉であること。
泣く口には食われるが,笑う口へは食われぬ……泣きながらでも,無は食えるが笑いながら物は
 食はぬこと。
泣く泣く噛んで笑い笑い呑む‥‥‥馬があざみを好んで食することをいうこと。

仲人口ほ半分に開け‥‥‥仲人の話には懸価が多いから半分に割引いて聞いて丁度よりよい程度で
 あること。

(ネの部)
猫の歯に蚤‥‥‥ありえぬことのたとえ。

(ノの部)
能なしの口たたき‥…・無能なく世にいらぬ事をしゃべることが多いこと。
狙うことも□から詛う・・‥‥人を詛うにも口に出して詛うこと。

(ハの部)
恥の名かくに爪ついず勘当被るに歯かけず…・‥恥をかくための爪も減らず,勘当をくう歯もかけ
 ない。恥をかいたり,勘当をこうむったりしても平気でいること。
歯に衣着せぬ‥‥‥卒直に思ったことをずけずけということ。
歯の抜けたよう‥‥‥ふぞろいな様
歯の根が合わない‥‥‥がたがたと震えおののくこと。
歯亡び舌存す‥‥‥剛強なものは.かえって早く滅び,柔軟なものは後まで生き残ること。
歯無しに食残しがない‥‥‥歯の悪い人は食意地が張っていること。
歯無しの骨だくみ‥‥‥不相応なたくみのこと。
歯魔羅眼・‥…年をとると,この三つが衰えることを言うこと。
初児に白歯見せるなありえぬことのたとえ子持ちは歯黒めをつけるの意。
春の雪と歯抜の狼はこわくない……春の雪は降ってもたいしたことがないこと。
歯を出す……しかること。
鳩の口さ豆‥‥‥待ち設けたようなこと。
歯と歯をつかえる‥‥‥深く契ること。
歯無しに食残しがない……歯の悪い人は,食意地が張っていること。
歯を与えるにその角を欠く翼をつくるにほその足を二つにす‥‥‥歯の鋭いものは角がなく,翼が
 あるものには足が二本しかない。造化の妙は一つに偏らず公平であること。

(ヒの部)
百の口が抜けた‥‥‥百に足りないこと。抜けていること。少し足りないこと。
一口物に頼を焼く‥…・一口で食べられるようなわずかな食物を食べて,口の中をやけどすること。
 すなわち,ちょっとしたことに手出しして,意外な失敗をすること。
雲雀の口に鳴子‥‥‥よくしゃべること。

(フの却)
笛は思を口移し‥‥‥笛の音は言葉と同じように呼き手の心を先方に伝えること。

(への部)
閉口‥‥‥負けて口をつぐんでしまうこと。
返歌をせねば口虫に生まれる……歌の返しをしなければ舌無き者に生ること。

(マの部)
負惜みの減らず口‥‥‥負けた者が強情をはって憎まれ口をたたくこと。

(ミの部)
耳から口‥人から聞いたことをすぐ受け売りすること。
耳に入れて口に出ず‥‥‥聞いたことを右から左にしゃべるばかりで実行しないこと。
身知らずの口たたき‥‥‥自分の分際も思わないで,大口をたたくこと。
耳は大なるべく口は小なるべし‥‥‥進んで多方面のことを聞く反面に口数は少なく控え目にする
 はうがよいこと。

(ムの部)
虫喰歯に物さわる‥‥‥痛い所に物がさわり安いこと。弱みをつかれること。
虫喰いも蚤えりの便り‥‥‥犬の虫喰い歯も,毛の中の蚤を捜して取る時には役に立つこと。

(メの部)
明峰皓歯……ひとみが澄んで歯が白いこと。美人の形容。
目口乾き‥‥‥思やりがなく,人の欠点を容赦なく悲難する陰険な人。
目で見て口で言え‥‥‥見てから口をきけの意。
目細あれど口細無し……眼識ある人は世間に少ないが,舌の巧みな人なら多いこと。
目も口程に物を言う‥‥‥口に出して言わなくても,目つきで気持を相手によく知らせることが出
 来ること。
目口が開かぬ……いそがしいこと。
目にて目を償い歯にて歯を償う……目には目を,歯には歯を。
目口はだかる‥‥‥驚ろきあきれる様。
目の点口にあり‥‥‥眼病の灸穴は口のまわりにあること。
目元千両口元万両‥‥‥美人の美しい目元と,可愛らしい口元のこと。可愛らしい口元。美人の形容。

(リの部)
良薬口に苦し忠言耳に逆う‥‥‥病気によく薬は苦がくて飲みにくい。身のためになる忠言は聞きづ
 らいということ。

(ワの部)
我が口に甘ければ人の口にも甘し…・‥自分の好むことは,人もまた好むこと。
鰐の口を逃がる……危険な所から逃れること。
鰐の一口……鬼の一口。

(その他)
・病は口より入り,禍いは口より出ず
・開いた口こ牡丹餅
・口に甘いは腹に毒



「歯科のあゆみ」青島 攻より

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